見失ってはいけないもの

毎日新聞8月1日掲載分です。

　王蟲は、宮崎駿監督の映画「風の谷のナウシカ」に出てくる架空の生き物です。
滅亡した過去の文明に汚染された腐海(ふかい)という不毛の地に生息し、
腐海を守る役目を果たしています。
腐海には自己浄化作用があり、自然との調和を図っているのに、
腐海が巨大化することを恐れ、人間は焼き払うことを企てます。
自然と科学文明の対立、文明の破壊と再生など、
宮崎アニメの原点が描かれています。
　このような問題は、現代医療でも重なるところがあり、
自然治癒力を生かし生体を修復していく東洋医学が、
現代医学に必要とされている理由もこのあたりにあるのかもしれません。
王蟲の眼の色は、普段は青く、怒ると赤くなります。
赤い眼の王蟲の突進を止めることができるのは、大砲や爆薬ではなく、
主人公ナウシカの、自然に対する畏敬の念であり、
それはそのまま、医療に携わる我々が見失ってはならないものであると思います。