2009年 03月 02日
善き人のためのソナタ |
北日本新聞シネマ館3月の例会で、
ドイツ映画「善き人のためのソナタ」が上映されます。
日時は3月11日と12日(両日14:00~と18:30~と2回)の二日間です。
会場は北日本新聞ホールです。
映画サークルの事務局長にこの作品をお勧めしたところ、
今回上映の運びとなりました。
その関係で、当日来館した人に配るチラシに載せる文章を書いてくれと頼まれ、
嫌とも言えず、感想文を書きました。
ややネタばれ的な文章になってしまいましたが、
以下がその内容です。
この映画のラストシーンを観た時、私は黒澤明監督の「羅生門」のラストを彷彿としました。人間のエゴイズムをとことん追求し、観客にその醜悪さを見せつけ、ラストで人が人として生きるための最低限の正義を描いたのが、黒澤監督の「羅生門」です。
この映画においても、人が人を当然のごとく監視し、反逆者を密告するという、あまりに切ない絶望感や、信頼する人を裏切る悲しみ、あるいは自由を奪われた怒りなどが、淡々と描かれています。しかし、最後には人としての優しさや尊厳など、一筋の希望を我々に投げかけてくれます。
映画の舞台は1984年の東ベルリンで、国民はシュターデ(国家保安省)の監視下にありました。ナチスドイツが崩壊し40年もの歳月が過ぎてもなお、東ドイツにおいては独裁政権が成立していたのです。この映画を観て、まずその事実に驚かされました。「10万人の協力者と、20万人の密告者が、全てを知ろうとする独裁政権を支えていた」というナレーションからこの映画は始まります。そのあと、非人道的な尋問シーンへとつながり、我々を一気にただならぬ雰囲気に引き込んでいきます。
しかし、一曲のソナタが、それまでの張りつめた緊張感を少しずつ緩めていきます。「この曲を本気で聴いた者は、悪人にはなれない」という、『善き人のためのソナタ』です。盗聴器から聞こえてきた一曲のソナタを初めて耳にした時、冷徹な監視国家の一員である主人公の心が少しずつ変化してきます。それまで社会主義国家に対し疑いの念を抱いたことのない主人公が、ある芸術家を監視することを通して、自由な思想、愛の言葉、生きる歓びなどに少しずつ目覚めていきます。そこには、芸術家との言葉を交わすことのない不思議な友情が結ばれ、その彼女である女優には慈愛の心が芽生えていくのです。
人が人の自由を奪うことの愚かさ、人が人を監視することの醜さ、人が人を裁くことの悲しさ、そのようなものを淡々と描きながら、最後には人間を信頼したくなる温かさを教えてくれる、私にとってこの映画はそんな作品でした。
ラストの主人公の言葉には鳥肌が立ち、涙があふれました。
お時間がありましたら、是非ご覧下さい。
ドイツ映画「善き人のためのソナタ」が上映されます。
日時は3月11日と12日(両日14:00~と18:30~と2回)の二日間です。
会場は北日本新聞ホールです。
映画サークルの事務局長にこの作品をお勧めしたところ、
今回上映の運びとなりました。
その関係で、当日来館した人に配るチラシに載せる文章を書いてくれと頼まれ、
嫌とも言えず、感想文を書きました。
ややネタばれ的な文章になってしまいましたが、
以下がその内容です。
この映画のラストシーンを観た時、私は黒澤明監督の「羅生門」のラストを彷彿としました。人間のエゴイズムをとことん追求し、観客にその醜悪さを見せつけ、ラストで人が人として生きるための最低限の正義を描いたのが、黒澤監督の「羅生門」です。
この映画においても、人が人を当然のごとく監視し、反逆者を密告するという、あまりに切ない絶望感や、信頼する人を裏切る悲しみ、あるいは自由を奪われた怒りなどが、淡々と描かれています。しかし、最後には人としての優しさや尊厳など、一筋の希望を我々に投げかけてくれます。
映画の舞台は1984年の東ベルリンで、国民はシュターデ(国家保安省)の監視下にありました。ナチスドイツが崩壊し40年もの歳月が過ぎてもなお、東ドイツにおいては独裁政権が成立していたのです。この映画を観て、まずその事実に驚かされました。「10万人の協力者と、20万人の密告者が、全てを知ろうとする独裁政権を支えていた」というナレーションからこの映画は始まります。そのあと、非人道的な尋問シーンへとつながり、我々を一気にただならぬ雰囲気に引き込んでいきます。
しかし、一曲のソナタが、それまでの張りつめた緊張感を少しずつ緩めていきます。「この曲を本気で聴いた者は、悪人にはなれない」という、『善き人のためのソナタ』です。盗聴器から聞こえてきた一曲のソナタを初めて耳にした時、冷徹な監視国家の一員である主人公の心が少しずつ変化してきます。それまで社会主義国家に対し疑いの念を抱いたことのない主人公が、ある芸術家を監視することを通して、自由な思想、愛の言葉、生きる歓びなどに少しずつ目覚めていきます。そこには、芸術家との言葉を交わすことのない不思議な友情が結ばれ、その彼女である女優には慈愛の心が芽生えていくのです。
人が人の自由を奪うことの愚かさ、人が人を監視することの醜さ、人が人を裁くことの悲しさ、そのようなものを淡々と描きながら、最後には人間を信頼したくなる温かさを教えてくれる、私にとってこの映画はそんな作品でした。
ラストの主人公の言葉には鳥肌が立ち、涙があふれました。
お時間がありましたら、是非ご覧下さい。
by tanikawaiin
| 2009-03-02 00:45
| 映画・音楽